映画のテーマ「内観」とは?
    日課のお朝事をする2人

    「内観」とは…自己の内面をじっくり観察すること
     本作のテーマを一言で申しますと「内観」です。そして、日々の暮らしの中で内観を実践された名倉幹(ミキさん)とカッツ恒(トニーさん)のお二人の貴重な聞法生活を映像で記録したのが映画「ピュアランド」です。映画をご覧になられた方が内観を実践するとはどういうことか、ご自身の感覚に引き合わせながら考えていただく時間になれば幸いです。
     そもそも、この「内観」という言葉に出会ったのは映画の製作が始まった2017年、ミキさんのインタビュー中に登場した加藤さんのお話がきっかけでした。「仏教は内観でっせ」と関西弁で加藤さんが仰ったエピソードを伺い、その言葉の意味を深く理解できないまま、映画のテーマとしてぼんやり頭の中にインプットした記憶がございます。
     その後、2018年に撮影を終える頃には「内観」(自己の内面をじっくり観察する)というコンセプトが仏教を体験する上でいかに重要であるかは理解しつつも、ではそれを映画の中でいかに描くかという課題を抱えたまま、コロンビアでの編集作業が始まりました。
     すべての素材の英訳と、整理精査が終わり、一通りの流れを構成案に沿ってざっくりと組み立てたところで、いよいよ編集の決断をする時期がやってきました。後戻りできない決断です。この段階に至っても依然、内観の描き方が固まっていなかったので、私は素材に宿っている魅力であるミキさんとトニーさんの肉声を聴き直す作業を始めました。つまり、聞法したのです。

    ミキさんの人生、そしてトニーさんの人生
     この映画の素材は大きく二つのパートに分類できます。ミキさんとトニーさんのそれぞれの過去の振り返り部分と、お二人の聞法生活を記録した部分です。
     過去の振り返り部分で、ミキさんとトニーさんはご自身の過去を実にオープンに、感情豊かに話されています。カメラが回ると良い格好をして過去の出来事を着飾って話す人もいますが、お二人のインタビューにはその要素が一切ありませんでした。これは何故なのか突き詰めて考えていくと、日頃より内観を実践されているからだということに気づきました。自然な姿で生きる人ほど魅力的な人はいません。お二人のインタビューには内省の姿勢がたくさん詰まっていたのです。
     そして、もうひとつはお二人が毎日の日課とされていた聞法生活の部分です。「法を聞く」と解釈すると受け身のイメージですが、本来の聞法の在り方はそうではないということに気づきました。何かを受け取るために仏法に聞き入っているように見えて、実は仏法という鏡に現れる自分を内観しているのです。これは仏教徒として求道を続ける私個人としても非常に大切な気づきでした。
     ここまでテーマの打ち出し方が見えると、あとはそれに沿って素材の粒を揃える作業です。一度、ざっくり組み立てた構成を諦め、再度さらに厳しく素材を選ぶ、または捨てる作業を始めました。この作業を何度も何度も繰り返し、現在の構成にたどり着きました。
     宗教の有無、どの宗教を信じるかにかかわらず、自分のありのままの姿を知ることは人生を全うするためにとても重要な点だと感じます。昨今のような混沌とした、不安定な世の中だからこそ、私たちが出来ることは外に解決を求めるのではなく、問題が問題でなくなる足場を心の中に作ることではないでしょうか。
     この映画を国境を越えて多くの方々に観ていただけるよう、出来る限りのことを尽くして参りますので、宜しくお願い致します。 (水上)